AIドラレコに乗り換える企業が相次ぐ理由。その違いとは?
2024/08/27
最初に
ChatGPTなど生成AIという言葉を聞かない日はありません。
文章をあっという間に書き上げたり、会話の内容を文字にするといった技術は日々進化しています。
AIはカメラなどのデバイスでの利用も当たり前の様に使われるようになりました。
人間を追跡するドローンなどはその典型です。
今回、紹介するのはAIドライブレコーダー(ドラレコ)です。
ドラレコは20年程前に登場して以来、商用車から一般乗用車まで多くの車に普及した一方
原理原則は変わっていません。
それが、AIが加わることでドラレコの使い方が大きく変わろうとしています。
この記事では、AIドラレコの特性や使い方を説明するので、まずは基礎知識としていただくとともに、
導入を検討するときの参考にしてみてください。
AIドラレコとは?
2018年頃から、企業の社用車用にAIドラレコ(AI搭載ドライブレコーダー)の導入が進んでいます。AIドラレコは、従来のドラレコが持つ事故時の映像記録機能に加え、AI(人工知能)を活用した高度な分析機能を備えています。
その反面、ドライバーである従業員の行動の記録、監視までも行われることになり、今までのドラレコの枠組みでは対応できないことが増えることが予想されます。
AIドラレコの基本機能と従来のドラレコとの違い
AIドラレコは、高性能なカメラとAI技術を組み合わせることで、以下のような機能を実現しています。
- 危険運転検知:スマホ見ながらなどの脇見運転、居眠り運転、急加速、急ブレーキなどの危険運転を自動で検知し、ドライバーに警告。
- 運転行動分析:ドライバーの運転傾向を分析し、安全運転指導に活用。
- 事故状況分析:事故発生時の状況を詳細に記録し、原因究明や責任追及に役立てる。
- クラウド連携:記録した映像やデータをクラウド上に保存し、遠隔地からの確認や管理を可能にする。
- ドライバーの自動判別:カメラがドライバーを自動で判断。従来のSDカードや運転免許証などでドライバーを判別比べ精度が向上。なりすましを防止する。
従来のドラレコは、主に事故時の映像記録を目的としていましたが、AIドラレコは、安全運転の促進、事故防止、業務効率化など、より幅広い用途で活用できる点が特徴です。
企業がAIドラレコを導入する目的とメリット
企業がAIドラレコを導入する主な目的は、以下の通りです。
- 交通事故の削減:危険運転の検知や運転行動分析を通じて、ドライバーの安全運転意識を高め、事故リスクを低減。
- 安全運転教育:運転評価データに基づいた個別指導や、危険運転の傾向分析による全体的な教育を実施。
- 業務効率化:配車管理や運行状況の把握、日報作成の自動化など、業務効率を向上。
- コスト削減:事故削減による保険料の軽減、燃料費の削減、車両管理コストの削減など。
これらのメリットから、AIドラレコは企業にとって魅力的なツールとなっています。
AIドラレコによる社員監視の実態
AIドラレコは、企業にとって多くのメリットをもたらす一方で、社員監視のツールとして利用される可能性も孕んでいます。実際に、AIドラレコは以下のような形で社員の運転行動を監視しています。
車内カメラによる運転行動の監視
- わき見運転、居眠り運転の検知:ドライバーの顔の向きや目の動きを検知し、わき見や居眠りを検知。警告音などで注意を促す。
- 急加速、急ブレーキなどの危険運転の検知:車両の加速度やブレーキ操作を検知し、急な操作があった場合に警告。
- その他:信号無視、速度超過、車間距離不足などの交通違反を検知する機能も搭載されている場合があります。
これらの機能は、安全運転を促進する上で有効ですが、同時にドライバーの行動を常に監視していることになります。
GPSによる位置情報、走行ルートの把握
AIドラレコはGPS機能を搭載しており、車両の位置情報や走行ルート、時間を記録することができます。これにより、企業は、
- 業務中の車両の位置をリアルタイムで把握:配車管理や業務効率化に役立てる。
- 走行ルートを記録し、日報作成を自動化:業務の正確な記録を残す。
- 無駄な寄り道や私的利用を監視:従業員の行動、行き先、滞在時間を管理する。
といったことが可能になります。
AI分析による運転評価、安全運転指導
AIドラレコは、収集したデータをもとに、ドライバーの運転評価を行い、安全運転指導に役立てることができます。
急加速、急ブレーキ、速度超過などの頻度を分析:
ドライバーの運転傾向を把握し、改善点を指摘。
安全運転ランキングを作成:
ドライバー間の競争意識を高め、安全運転を促進。
しかし、AIによる評価は必ずしも客観的ではなく、誤った評価が下される可能性もあります。また、常に評価されているというプレッシャーは、ドライバーのストレスを増大させる可能性も懸念されます。
AIドラレコはどこまで社員を監視できるのか?
AI技術の進歩により、AIドラレコの監視機能はますます高度化しています。現在では、以下の様な機能も実現されています。
顔認識、感情認識によるドライバーの状態把握
- 顔認識:ドライバーが誰かを特定し、個人ごとの運転データを記録。不正なドライバーの運転を防止。
- 感情認識:ドライバーの表情や顔色から、眠気、ストレス、怒りなどの感情を推定。
危険な状態を早期に検知し、事故防止に繋げる。
音声認識による会話内容の記録
- 車内会話の記録:ドライバーと乗客の会話を記録し、接客態度や業務内容の確認に活用。
トラブル発生時の状況把握に役立てる。
- 危険な発言の検知:「疲れた」「眠い」などの発言を検知し、ドライバーに注意を促す。
この機能については、まだ、実装されている機種は確認されていないが、
今後、予想される機能の一つではある。
クラウド連携によるリアルタイム監視
- リアルタイム映像の確認:管理者が遠隔地からでも、車両内の状況をリアルタイムで確認。
- 緊急事態発生時の迅速な対応が可能。
- 位置情報、運転データのリアルタイム共有
- 車両の位置や速度、運転状況などをリアルタイムで把握。
- 配車管理や業務効率化に貢献。
これらの機能は、安全運転や業務効率化に貢献する一方で、プライバシー侵害や過剰な監視につながる可能性も否定できません。
AIドラレコ導入における法的・倫理的課題
AIドラレコの高度な監視機能は、個人情報保護法や労働法などの法律に触れる可能性があります。また、倫理的な観点からも、監視の目的や範囲、従業員の同意など、考慮すべき課題が山積しています。
個人情報保護法の観点
- プライバシー権侵害の懸念:顔認識、音声認識、位置情報把握など、個人情報の収集・利用は、プライバシー権を侵害する可能性がある。
個人情報の適切な管理:収集した個人情報は、厳重なセキュリティ対策を講じて管理する必要がある。
労働法の観点
- 労働者の権利と監視の制限:労働者のプライバシー権や人格権を尊重し、必要以上の監視は避けるべきである。
- 労使間の合意形成:AIドラレコの導入目的や監視範囲について、労働者と十分な話し合いを行い、合意を得ることが重要。
倫理的観点
- 監視の目的と範囲:監視は、安全運転の確保や業務効率化など、正当な目的のために限定されるべきである。
- 従業員の同意と透明性:従業員に対して、AIドラレコの導入目的や監視内容を明確に説明し、同意を得ることが重要。
監視状況を透明化し、従業員がいつでも確認できるようにするべきである。
AIドラレコ導入のメリットとデメリット
AIドラレコを導入するかどうかは、企業にとって重要な経営判断です。導入前に、メリットとデメリットをしっかりと把握しておく必要があります。
メリット
- 安全運転の促進と事故削減: AIドラレコによる危険運転の検知や運転行動分析は、ドライバーの安全意識を高め、事故リスクを大幅に低減する効果が期待できます。
- 運転業務の効率化とコスト削減: 配車管理や日報作成の自動化、最適なルート案内などにより、業務効率が向上し、人件費や燃料費などのコスト削減につながります。
- コンプライアンス遵守とリスク管理: 危険運転や交通違反の抑止、事故発生時の状況把握、証拠保全など、コンプライアンス遵守やリスク管理の強化に貢献します。
デメリット
- プライバシー侵害の懸念: 車内カメラや音声認識による監視は、従業員のプライバシーを侵害する可能性があります。
- 従業員のストレス増加: 常に監視されているという意識は、従業員のストレスを増大させ、モチベーション低下や離職につながる可能性もあります。
- 導入・運用コスト: AIドラレコ本体の購入費用に加え、クラウドサービス利用料、データ通信費、メンテナンス費用など、導入・運用コストがかかります。
AIドラレコ導入の注意点
AIドラレコを導入する際には、以下の点に注意する必要があります。
- 導入目的と監視範囲を明確にする:なぜAIドラレコを導入するのか、何を監視するのかを明確にし、従業員に説明することが重要です。
- 従業員への説明と同意を得る: AIドラレコの導入目的や監視内容について、従業員に十分な説明を行い、理解と同意を得る必要があります。
- プライバシー保護対策を徹底する: 個人情報保護法を遵守し、収集した個人情報の適切な管理とセキュリティ対策を徹底する必要があります。
- 適切なデータ管理とセキュリティ対策:記録された映像やデータは、漏洩や不正利用を防ぐために、厳重なセキュリティ対策を講じる必要があります。
- 労使間の信頼関係構築:AIドラレコの導入は、一方的な監視ではなく、安全運転の促進や業務効率化など、従業員の利益にもつながるものであることを理解してもらうことが重要です。労使間の信頼関係を築き、協力して運用していくことが大切です。
まとめ:AIドラレコと社員監視のバランス
AIドラレコは、企業にとって多くのメリットをもたらす一方で、社員監視のツールとして悪用される可能性も否定できません。AIドラレコの導入は、企業の利益と従業員の権利のバランスを考慮し、慎重に進める必要があります。
AI技術の進化は、今後もAIドラレコの機能をさらに高度化していくでしょう。同時に、プライバシー保護や倫理的な課題についても、より一層の議論が必要となります。企業は、AIドラレコの可能性を最大限に活かしつつ、従業員の権利を尊重し、社会的に責任ある形で運用していくことが求められます。
著者プロフィール
山口 功司(やまぐち こうじ)
恵那バッテリー電装株式会社代表取締役
1970年生まれ。岐阜県出身 愛知工業大学工学部卒業
株式会社カナデンを退職後、家業である同社に入社。
2007年より、法人向けドライブレコーダーの販売を開始。
年間1000台以上販売を続けている。