【営業車の運行データから考えるシリーズ・第3回】「注文が来たから訪問する」を、一度データで立ち止まってみる
最初に
ここまで2回にわたり、営業車の走行データから、
移動にかかる時間とコストについて考えてきました。
今回は少し視点を変えて、「なぜ人は、採算に合わない訪問をしてしまうのか」という、
判断そのものの仕組みについて考えてみます。
「注文が来た、嬉しい、訪問しよう」という自然な反応
営業の現場でよくある光景として、
遠方の取引先から注文の連絡が入ったとき、
「ありがとうございます、すぐお伺いします」と、
その場で訪問を決めてしまうことがあります。
これは、営業担当者として自然な反応です。
注文をもらえたことへの感謝の気持ちや、
「せっかくの機会だから顔を出しておきたい」という思いは、
決して間違ったものではありません。
しかし、前回・前々回の試算を思い出してみてください。
片道30kmの訪問には、移動だけで約6,000円分のコストがかかり、
その移動時間は運転以外に何も生み出せない時間でもあります。
「嬉しいから訪問する」という判断と、
「その訪問が採算に合っているか」という判断は、実は別の軸にあるものです。
感情と計算が、ずれやすい理由
人は、目の前で起きた嬉しい出来事(注文が来た)に対して、
すぐに行動で応えたくなる傾向があります。
これは営業担当者に限った話ではなく、多くの人に共通する自然な反応です。
一方で、「往復2時間かけて訪問することが、本当にこの注文の規模に見合っているか」
という計算は、感情が動いた直後には、あまり意識されにくいものです。
注文の金額が小さくても、「せっかく声をかけてもらえたのだから」という気持ちが先に立ち、
移動コストの計算は後回しになりがちです。
これ自体を悪いことだと決めつけるつもりはありません。
ただ、この「感情が先に立つ判断」と「データにもとづく判断」を、
意識的に切り分けられるようにしておくことには、大きな意味があると思います。
判断を「感情」から「基準」に置き換える
ここで役立つのが、前回整理した距離別の移動コストの目安です。
– 片道10kmの訪問:移動コストの目安 約2,000円
– 片道20kmの訪問:移動コストの目安 約4,000円
– 片道30kmの訪問:移動コストの目安 約6,000円
– 片道50kmの訪問:移動コストの目安 約10,000円
こうした基準をあらかじめ持っておくことで、
「注文が来た、嬉しい、すぐ行こう」という反射的な判断の前に、
「この距離の訪問には、これだけのコストがかかる」という
もう一つの物差しを差し込むことができます。
たとえば、「片道30km先からの小口の注文であれば、
訪問ではなく電話や郵送での対応にする」といったルールをあらかじめ決めておけば、
その場の感情に流されず、機械的に判断できるようになります。
これは、訪問そのものをやめるという話ではなく、
「感謝の気持ちを示す方法は、訪問だけではない」という選択肢を持っておく、ということでもあります。
データが「立ち止まるきっかけ」になる
このような判断基準を機能させるためには、
「実際にどれだけの時間とコストをかけて訪問しているか」を、
感覚ではなく数字で振り返られる状態にしておくことが欠かせません。
第1回・第2回で扱ったような走行データは、
まさにこの「振り返り」のための材料になります。
月間の走行距離・走行時間を見返したときに、
「思っていたより遠方への訪問が多かった」ということに気づければ、
次からの判断基準を見直すきっかけになります。
こうした振り返りは、一度きりの集計では終わりません。
継続的にデータを蓄積し、定期的に見返す仕組みがあってはじめて、
「感情での判断」から「基準にもとづく判断」へと、
営業活動全体を少しずつシフトさせていくことができます。
まとめ
「注文が来て嬉しいから訪問する」という気持ちは、
営業という仕事の大切な原動力のひとつです。
それを否定する必要はありません。
ただ、その気持ちと、移動にかかる実際のコストとを、
別の軸として意識的に見比べられる状態を作っておくことが、
科学的に営業活動を最適化していく第一歩だと思います。
次回は、実際の走行ルートのデータをもとに、
同じ訪問件数でも、順序の組み方によって移動時間がどれだけ変わるのかを見ていきます。
著者プロフィール
山口 功司(やまぐち こうじ)
恵那バッテリー電装株式会社代表取締役
1970年生まれ。岐阜県出身 愛知工業大学工学部卒業。株式会社カナデンを退職後、家業である同社に入社。
2000年前後の黎明期からドライブレコーダー市場を見続け、2007年より法人向け販売を開始。これまでの取り付け実績は数万台。2009年からは「無事故プログラム」の全国展開に携わり、現在は同事業が売上の4割を占めるまでに成長した。北海道から沖縄まで、全国どこでも対応する取付体制を自ら築いてきた。
