【公用車管理を考えるシリーズ・第2回/全7回】”報告を受ける”だけの管理でよいのか スクールバス事故が投げかけた問い
最初に
前回、公立小中学校のスクールバスの多くは
「車両は自治体が保有し、運転・運行管理は民間事業者に委託する」という形態が一般的だとお伝えしました。
この仕組みは、自治体が自前で運転士を雇用・育成する負担を減らせる、合理的な運用方法です。
しかし、2026年6月に富山市で起きたスクールバスの事故は、
この「所有と運行の分離」という構造が持つ課題を、あらためて浮き彫りにしました。
今回は、報道された事実にもとづいて、この事故から見えてくる管理上の論点を整理してみます。
何が起きたのか
2026年6月24日午後、富山市内で下校中の児童31人を乗せた大型スクールバスが、
踏切に進入したところで遮断機が下り、踏切内で停車する事態が発生しました。
運転士が非常停止ボタンを押したことで、接近していた貨物列車は約400メートル手前で緊急停止し、
衝突には至りませんでした。児童・運転士にケガはありませんでした。
その後の調査で、運転士は踏切進入前に左右の確認は行ったものの、
警報機の点灯を目視で確認していなかったこと、
また運転席の窓が閉まっていたため警報音に気づけなかったことが明らかになっています。
踏切内で停車してからも、判断に時間を要したことが報告されています。
保護者向けの説明会では、運行ルートの見直しを求める声や、
運転士の対応への疑問の声が上がりました。
自治体側は、大型バスについてはより上位の免許区分を持つ運転士が運転するよう求める方針を示しています。
この事故が示す「構造的な」論点
今回の事故は、個々の運転士の確認不足が直接の要因とされています。
しかし、この事故を「運転士個人の資質の問題」として片付けてしまうと、
見落としてしまう論点があるように思います。
それは、車両の所有者である自治体が、
日々の運行状況について、委託先からの報告以外に、
客観的な形で状況を把握する手段をどれだけ持っていたか、という点です。
報道では、運転士がどちらの免許区分を保有していたかについて、
自治体側が「答えられない」とした場面もありました。
これは、委託という形態そのものが悪いというより、
委託先の運行実務に関する情報が、自治体側に十分に集約されていなかった可能性を示しています。
「委託=任せきり」ではない管理のあり方
自治体がスクールバスの運転業務そのものを内製化することは、コストや人材確保の面から現実的ではありません。
委託という形態自体は、今後も合理的な選択であり続けるはずです。
一方で、日々の運行状況を「委託先からの事後報告」だけに頼るのではなく、
自治体側も同時に客観的なデータで状況を把握できる仕組みを持つことは、
委託先の負担を増やすことなく実現できる部分もあります。
たとえば、運行中の映像や走行データをリアルタイムに共有できる体制があれば、
異常事態が発生した際、自治体・保護者への情報伝達のスピードも変わってきます。
次回は、こうした「委託先と自治体が同じデータを共有する」という考え方について、
具体的にどのような手段があるのかを掘り下げてみたいと思います。
クラウド型AIドライブレコーダー ▶
運行状況を委託先からの報告だけに頼らず、客観的なデータで確認できる体制づくりの一例です。
無事故プログラム ▶
日々の運転データを蓄積し、事故が起きる前の段階でリスクを把握することに重点を置いた取り組みです。
まとめ
今回の事故は、幸いにも大きな被害には至りませんでした。
しかし、公用車のなかでも特に「所有と運行が分離」しているスクールバスにおいて、
自治体がどこまで実態を把握できる体制にあるかは、今後も問われ続けるテーマです。
委託先の実務を尊重しながらも、客観的なデータで裏付けができる管理体制について、
次回さらに考えていきます。
連載記事一覧
第1回 公用車は一枚岩ではない 乗用車・ごみ収集車・バスで異なる管理のルール https://enabattery.co.jp/useful/1949/(8月10日(月)配信)
第2回 ”報告を受ける”だけの管理でよいのか スクールバス事故が投げかけた問い(8月12日(水)配信)
第3回 ”言った・言わない”をなくす 公用車管理に客観性を持たせる方法 https://enabattery.co.jp/useful/1944/(8月14日(金)配信)
第4回 ”たまたま気づけた”では済まされない 公用車の不適切利用はなぜ見過ごされるのか https://enabattery.co.jp/useful/1954/(8月17日(月)配信)
第5回 ルールはあるのに、証明する手段がない 自治体の公用車規程を読み解く https://enabattery.co.jp/useful/1956/(8月19日(水)配信)
第6回 自己申告に頼らない 運転免許確認とカギ管理の仕組み化 https://enabattery.co.jp/useful/1958/(8月21日(金)配信)
第7回(完結編) 管理を”プロに任せる”という選択 車検切れをなくす仕組み https://enabattery.co.jp/useful/1960/(8月24日(月)配信)
著者プロフィール
山口 功司(やまぐち こうじ)
恵那バッテリー電装株式会社代表取締役
1970年生まれ。岐阜県出身 愛知工業大学工学部卒業。株式会社カナデンを退職後、家業である同社に入社。
2000年前後の黎明期からドライブレコーダー市場を見続け、2007年より法人向け販売を開始。これまでの取り付け実績は数万台。2009年からは「無事故プログラム」の全国展開に携わり、現在は同事業が売上の4割を占めるまでに成長した。北海道から沖縄まで、全国どこでも対応する取付体制を自ら築いてきた。
